恋の訪れ

どれくらい時間が経ってたのかなんて全然分かんなかった。

重い瞼をゆっくりと開けると、薄暗い部屋の明かりとともに部屋の視界に目を奪われる。

徐々に記憶が舞い戻ってくるその風景。

ここがホテルだとは気づいたのは数秒だった。

と言うよりも、あたしの身体に抱きつくかの様に乗っかっている誰かの腕。

嘘でしょ…

あたし先輩と眠ってた?


「え、ちょっ、」


その誰かと言うのはここに一緒に来たサクヤ先輩の腕で――…


「サ、サクヤ先輩っ!?」


慌てて腕を振りほどくと同時に「うん?」と小さく呟かれて寝がえりを打ったその人物に眩暈が起きそうだった。


「え…なんで?」


さっきまであたしの身体を覆いかぶさるように乗っかっていた腕はサクヤ先輩じゃなくて、それはどうみても昴先輩。

しかも上半身、裸。

何がどうなってんかも分かんないあたしは、とりあえずシーツを剥ぎ取って自分の姿を確認する。

ここに来たまんまの制服姿。

その隣で眠っているのはどう見ても昴先輩。

この薄暗い部屋の中、もう一度、顔を近づけて確かめるものの、それはどう見ても昴先輩だった。


あたし…サクヤ先輩と来たよね?

なのに何で、昴先輩と居るのですか?

しかもベッドで絡まり合う様に寝てたのは何で?


思い出すにも思い出せなかった。

横になった記憶はある。

だけどその後の記憶なんてなにもない。
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