プラチナブルーの夏
1.
 ただでさえあたしは、自分のカラダの成長の早さに、コンプレックスを抱いていたというのに。

 初めての生理が来たのは、小三の始め。ある日曜日の夕方だった。
 パンツに、血と呼ぶにはあまりにも暗い、チョコレート色の血液がついていた。

 あたしは最初、これが本当に『生理』というものなのかがわからなくて、仕方なくその汚れたパンツを、そのまま母親に見せた。

 なんだかものすごく悪い事をしてしまったかのように感じたのは、パンツを見た一瞬、母親が眉をひそめたからだ。

 母親は、ほとんどあたしと目を合わさないまま、これは生理だという事と、ナプキンの使用方法などを教えてくれた。

 なんとなく気まずい、後ろめたさを感じる空気の中で、それでもその夜は母親がスーパーで買って来たパック入りの赤飯を、二人で黙々と食べた記憶がある。

 下腹に鈍く響く痛みと、おいしくもない冷めた赤飯。
 あたしは自分のカラダの変化が、少しも嬉しくなかった。

 そしてその後、生理を追うように、腋の下や下半身の毛が日に日に生えてきた。それはなんとなく、母親に報告できなかった。もうこの時点で、あたしのキャパは完全にオーバーしまくっていた。

 なのに。

 更なる追い討ちをかける変化が、あたしのカラダに起きた。
 体育の時間や休み時間。軽く走ったり、ただ廊下を歩いたりしているだけでも、オッパイが痛くて痛くてたまらなくなった。

 母親にはもちろん、クラスメートの誰にも相談なんて出来ないまま、

(この、オッパイの中に詰まっている硬いカタマリは一体なんだろう…?)
(なんかの病気…?かも、知れない…)

 主に夜、お風呂の中で、今日も一日中痛かったオッパイを、痛くならない程度に静かに静かに触りながら。

 あたしは悩み、途方に暮れていた。

 やがて硬いカタマリは少しずつ溶けるようになくなり、痛みも引いてきた頃、あたしのオッパイは、ものすごく大きくなってしまった。

 走ってももう痛くはないけれど、ゆさゆさと上下に揺れる、ただ邪魔なものに変わっただけだった。

(なんでだろう?あたしだけ…)

 元々あたしはクラスの中でも背が伸びるのが一番早く、それをコンプレックスに感じた事がたまにあった。

 クラスメート達は、さすがに生理や発毛が始まったあたしのカラダの変化には気づかなかったけれど、大きく膨れたオッパイだけは隠しようがなく、こそこそとこちらを見ながら何かを話している声が、時々聞こえてくる
ようになった。
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