プラチナブルーの夏
4.
「井上の女達に、あんたは似過ぎてて嫌だよ」

何度目の時だったか、新しいブラジャーを買うためのお金をあたしの手のひらに乗せながら
「お父さんのとそっくりね!!」と吐き捨てたあの日と同じ表情で、母親は言った。

「井上の女達」とは、父親の母親と、三人の姉の事だ。確かにあたし自身も、それには気づいていた。この体型は父方の祖母や叔母達に、よく似ていると。

一方、母親の体型は良く言えば華奢、悪く言えば貧相でヤセギスだ。

しかし、父親と離婚して、もう何年も経っているのに、未だにしつこく恨みがましい様な事を言っている母親に、あたしはものすごくイライラした。お金を奪い取る様にして、ついにあたしは積年の怒りを思い切りぶつけてしまった。

「そんなの、あたしのせいじゃないよ。気に喰わないんだったら最初から、子供なんて作らなきゃ良かっただろ!!」

自分でも驚くくらい、ドスのきいた低い、声。

母親も、一瞬、唖然とした顔であたしを見ていたが、もう次の瞬間にはキィキィと喧しい声を立てて、何かを叫び始めた。あたしはそれを無視して家から飛び出し、薄っすらと青に溶ろけたサーモンピンクの夕空の下を、ブラジャーを買いに走った。

それがきっかけとなり、母親とあたしはほとんど会話する事がなくなった。

昔から、大して話す事などなかったし、母親は夜の勤めに出ているので、顔自体合わす事すら稀だったから、特に不自由に感じたり、寂しい気持ちになったりしなかった。
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