プラチナブルーの夏
6.
リツコの家は、あたしの家とは反対の方向にある大きな橋を渡り、長くて入りくんだ細い坂道の上にある、小さな木造アパートの二階だった。

ドアを開けると、ムッと蒸し暑い空気が籠もっていたのがわかった。

「暑ぅ!!あ~も~ごめんなぁミズキ~暑いやろ?」

窓を開けて、台所の換気扇を回しながら、リツコはちょっと恥ずかしそうにニシシッと笑った。

「うち、エアコンもないんよ。扇風機で、我慢してな」

「うん。大丈夫」

答えながらあたしは、途中のコンビニで買ったアイスクリームを袋から取り出した。

「あ、アイス今食べよか?ミズキ食べたい?」

「うん、とりあえず先に食べちゃお」

「あ~友達が泊まりに来るなんて、こっち来て初めてだわ!何年ぶりやろ」

リツコはほとんど下着姿で、それでも汗をかきながら、嬉しそうにアイスクリームを食べ始めた。

「あたしも。こんなに仲良くしてくれる子に会えるなんて思ってなかったから、すごい嬉しいよ」

もう、とっくにあきらめていた。女友達との、こんな時間。

つくづく、リツコに会えてよかったと、あたしは思った。

「しっかし、ほんまミズキのオッパイでっかいよなぁ。私にもちょっと、分けてほしいくらいやわ!」

リツコになら、そういうことを言われても不思議と傷つかず、腹も立たないあたしは、

「分けれるもんなら分けたいよ」

と笑った。

「うちの彼氏なんか、どっちがオッパイでどっちが背中かわからん、とか言うんやで。そこまで言われる筋合いないわー!っていつも言ってんねんけど」

「えっ?知らなかった。リツコ、彼氏いるんだ」

「あぁ…うん。なんや照れくそーて、今まで言えへんかってんけど」

子猫が目を細めるようにして、嬉しそうにリツコははにかんだ。

だんだんあたしも汗ばんで来ながら、もうほとんど溶けてしまったアイスクリームの最後をカップを傾けて、一気に飲み干した。

「彼氏、どんな人なの?」

「ん~。三つ年上でな、高校中退しとるから今は実家の仕事、教わりながら働いてんねん」

どんどん顔が赤くなっていくリツコを見ながら、あたしは心からやさしい気持ちになっ
た。

「……つうか、なんじゃこの熱帯夜は!?あっつぅ~~!!これなら風が吹いとる分、外の方がマシだわ!な、ちょっと散歩して涼みに行こ、ミズキ」

「うん」

クスクスと笑うあたしの背中を「なんよーなんなんよー」と、

相変わらず照れくさそうなリツコは軽くトン、と叩いた。
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