プラチナブルーの夏
7.
外は思っていた以上に涼しい風が吹いていた。

「は~、やっぱり外出て正解やったなぁ」

少し前を歩くリツコは、華奢な両腕をゥ~ン、と夜空に向かって突き上げた。

闇に溶けてしまいそうな、その後ろ姿に、あたしは言った。

「でもこの坂道、あんまり街灯がないから、暗くてちょっとコワイかも…」

リツコはくるん!とこちらを振り向き、後ろ歩きをしながら、

「コワイ?そう?…ま、私はもう慣れてるからな。うちのお母ちゃんなんかは、仕事終わって帰って来るの夜中だから」

コワイ、コワイ言うて、この狭い坂道の上まで無理やりタクシーの運ちゃんに乗せてもらってるらしいねんけど。
 
ニシシッ。笑った。
 
段々と暗闇に、目が慣れて来る。

「お母さん、夜働いてるんだね。うちも、そうだよ」

「あ、そうなん?」

「うん。今日は何時に帰って来るの?」

やっと坂道が終わり、行きにアイスクリームを買ったコンビニの、眩しいくらいの明るい光をバックに、リツコが答える。

「さぁなぁ…最近、あんまり帰ってこんよ。新しい彼氏でも、出来たんとちゃうかな」

意外な言葉、サラッと言う。

「うちのお母ちゃん、節操とか全くないんよ。
お客で来てた、よそん家のダンナさんと好き合って、カケオチしかけたりな。
それが、私のクラスメートのお父ちゃんだったりしてなぁ。そういう事もあったから余計に、友達なんか出来へんかったんやろなぁ」

逆光でよくわからなかったけれど、リツコはたぶん普通に笑いながら、事も無げに話してくれたのだと思う。

「へぇ…そうなんだ。色々あったんだねー」

だからあたしも事も無げに。
 
笑いながら、サラっと言葉を返した。

コンビニの角を曲がり、再び暗い道に入る。
 
あたしは、七センチくらい背の低いリツコの柔らかい手のひらで、頭をヨシヨシ、と撫でられた。

「私な、ミズキのそーゆうとこが、めっちゃ好きなんよ」

ニシシッ。

チェシャ猫みたく、いつもイタズラっぽく、笑うリツコ。
 
あたしはリツコのこういう笑顔がめちゃくちゃ好きだな。そう思った。
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