SAMURAI PLUM
【弐】stripe session
【J地区】24番街の裏通りに建つ、BAR【GROOVE】…───。
コンクリート階段を降り、蔓(※蝋)が巻かれた扉を開く。
薄暗い内装。ジャズ。
カウンターテーブル(水槽)を魚が泳ぎ、それを青いLEDが照らす。
空席に座ると、男はコニャックを一杯頼んだ。
後退した生え際。丸みを帯びた背筋。白塗りされた顔。頬骨まで伸びた紅。黒ずんだ瞼。
異形な身なりをした男に、琥珀色のコニャックが出される。
「ふ、ふふ、ふ」
すると男は懐から生卵を取り、スニフターの縁で割ると、それをコニャックに落とした。
もう一個、更に一個。
その奇行に、バーテンの男は唾を飲む。
「君には私がどう映る」
突然、男はバーテンに問う。
「山下 駿。2213年1月15日生まれ。身長176cm、体重65kg。君に聞いているんだ」
「え」
「え…───か。ふふふ。君は反射的に、恒久的平和を求めるようだ。つまり何千通りとある選択肢から、え…───と言う返答が一番危険性が少ないと、そう“核(コア)"が判断したのだろう」
「な、何を言って…───」
「いや、当然か。私がそう“造り替えた"のだからね」
次の瞬間、バーテンの目玉がぐるりと白目を向き、機械的な口調に変わる。
『ガガ…ガ…、ガガガ』
「自我崩壊(バースト)…───」
カウンターを飛び越え、まるで蟹の腕をもぐように、客の四股を裂いてゆくバーテン。
否、…───“違法Android"。
断末魔の叫びが響き渡り、血飛沫が舞う。
「きゃあああ…───!」
「た、助けてくれえええ…───!」
『ガガガ…ガガ…』
その間も一人カウンター席に座り、スニフターの底を軽く回す男。
匂いを嗅ぎ、一口飲む。
「嫌あああ…───!」
「ふふ、混沌の味」