・*不器用な2人*・
第9章/双子の弟
「淳、何やってるの。」

めぐちゃんと私が呆気にとられていると、目の前に立っている男子とそっくりな木山君が歩いてきた。

あきれ顔の木山君は、そっくりさん同様に髪を耳にかける仕草をする。

「俺が足怪我してること知ってるんだから慮ってよ、梶も。」

木山君はそう言うと、私の真後ろに腰を下ろす。

「木山君、この人って……。」

私は木山君とその隣りに立つ男子を何度も見比べる。

顔は違うし、声も木山君の方がずっと通っている。ただ、格好や仕草がまったく同じなのだ。

「こいつ、俺の弟の淳。
俺らとタメ。」

木山君は疲れたように頭をかかえながら、低い声でそう言った。



教室に戻ると、淳君はいつものように鞄から取り出した雑誌を読み始める。

もうすぐ授業が始まるのに、机の上には何の準備も置いていない。

後ろからチラと見える表情は、なんだか楽しそうで、幼い子どものように見える。

私がジロジロ見ていることに気付いたのか、淳君はパッと顔を上げた。

必然的に目が合う。

「風野さん、あいつらと仲良いの?」

淳君は私を横目で見ながら言う。

いつもなら曖昧に答えるところだったけれど、先ほどめぐちゃんに友達宣言をしたばかりだったので、私は素直に頷いた。

「風野さんはあいつらの何を知ってるの?」

さらに追い打ちをかけるように言われて、私は答えにためらった。

沈黙してしまった私を見ながら淳君は楽しそうに笑って、こちら向きに座り直した。

「綾瀬って呼んでいい?」

明るい調子でそう言われ、私は特に断る理由もなく頷いた。




放課後。

「綾瀬、2人で帰ろうぜ。」

まだ木山君のクラスのHRが終わらないうちに、荷物をまとめた淳君が明るく笑って言った。

木山君を待たなくていいのかと私が戸惑っていると、彼は少しだけイラだったように笑いを歪め、私の腕を強引にひいた。

いつもより早く校門を抜けると、通学路にはほとんど誰もいなかった。

どうして級にこんなことになったのだろうと思いながらも、私は淳君と一緒に駅へと向かう。

「淳君って、木山君と双子なんだね。」

私が昼休みのことを思い出しながら言うと、淳君は頷いた。

「双子って言っても、違う家で暮らしてるし、全然兄弟って感じじゃないよ。
高校に入って久しぶりに顔合わせたくらいだし。」

そういいながら、淳君は少しだけ眉をひそめた。

仲が悪いのだろうか、淳君はあまり木山君の話をしようとしなかった。




家に着いてすぐ、私服に着替えずに私は元来た道を引き返した。

――謝らなきゃ。

自然にそう思った。

一緒に帰る約束をしていたのに、一言もなしに置いてけぼりにされたら。

私だったら絶対に傷付くと思う。

どんな事情があったって、こんなことはやりたくなかった。

フラフラとした足で後者へと入る。

木山君のクラスは当然のようにHRが終わり、一部の生徒しか残っていなかった。

「木山君いませんか。」

扉付近に座っていた男子に声をかけると、彼はすぐに「グラウンド」と答えた。




グラウンドを囲む芝生の上に、木山君は寝そべっていた。

彼は私の足音に気付くと、フッと顔を上げる。

「ごめんなさい、先に帰っちゃって。」

そう言いながら横へ腰を下ろすと、木山君も起き上がった。

「わざわざ戻ってきてくれたの?」

驚いたように言われ、私は頷いた。

「淳君が、一緒に帰ろうって言ってくれたから頷いちゃったけど、木山君に一言言えなかったのが気になって……。」

そう言いながら、私はグラウンドへと目を向ける。

いつも一緒にお弁当を食べているメンバーが、ひたすらボール拾いをしていた。

「うん、なんとなくそんなことだろうと思ってた。」

木山君は困ったように笑いながら、前髪を耳にかけ直す。

「ありがとうね、淳と仲良くしてくれて。」

彼はそう言うと、フッと目を細めた。




梶君、めぐちゃん、浅井君、木山君の全員を含めたメンバーで帰るのは、久しぶりだった。

めぐちゃんは浅井君にフラれたということが信じられないくらい、自然に彼と話していた。

木山君は梶君にty9おっかいをかけて梶君に怒られていたし、私は彼らを笑いながら眺めていた。

それは、私が1番望んでいた光景だったはずなのに、どうしてかいつかのように寂しくなった。

――もういいだろう。

――もうおしまい。

そう言われ、私がグループから外れる日がくるような気が、どこかでしていた。


駅で別れる時、木山君に言われた。

「これからは淳と帰ってあげて。」

私はその言葉の意味もよく分からないまま、頷いた。




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