夢現
針葉樹
赤に、黄色に山は色付く。
通る人たちは皆、口々に綺麗だと言う。
緑のままの、細く尖った葉たちが羨ましそうに見た。

『きれいだって』
『美しいだって』
『素敵だって』
通る人々が、赤や黄色の葉を見て言った言葉を繰り返す。

針葉樹に、一羽のスズメがとまった。
『風の強い日、あなたたちのおかげで休めるわ』
スズメの言葉に、針葉樹の葉は口々に言ってた。
『きれいじゃない』
『美しくない』
『素敵じゃない』

やがて、雪が降った。
あれほど人を惹きつけた色は、いつの間にか、茶色いぼろぼろのものになった。
雪の白さが、茶色いはがちらほら残る木を、更にみすぼらしく見せた。

針葉樹には雪がのり、その姿を飾った。
『きれいだね』
『美しくね』
『素敵だね』
針葉樹の葉は、嬉しくなり、自分たちを誉めた。

針葉樹の枝で休んでいたスズメが飛んだ。
『さようなら』
針葉樹の葉は、それに気づかなかった。
斧を持った人間が、針葉樹を切り倒した。
針葉樹は、暖かい暖炉の前で更に飾られた。

目の前で沢山の人たちが自分たちを誉める。

何日かして、だんだん苦しくなってきた。
『どうしてだろう』
『何故だろう』
『苦しいね』
針葉樹の葉は不安になった。
そんなある日、葉は全て削がれ、バラバラにされた木は順番に火にくべられていった。

秋が来て、また赤や黄色に色付く山。
人は言う。
『きれいだね』
『美しいね』
『素敵だね』
< 2 / 28 >

この作品をシェア

pagetop