夢現
悪、誕生
『おのれ…』
悪の枢軸は、そう言って倒れた。
建物が崩れ出す。
命からがら、逃げ出す。
振り向くと、いきなり爆発した。
戦いは終わった。

長かった。
思えばある日突然、よく分からない動物に、『悪と戦うのが使命だ』と言われ、正義の味方になった。
変身したり、よく分からないものに襲われたり忙しかった。
これで解放される。

部屋に帰り、風呂に入る。
風呂上がりに、ビールを片手にテレビを付ける。
緊急の呼び出しが入る可能性もない。
ゆったりソファにもたれる。

翌日から、一般的な生活が始まる。
平和だ。
誰も襲ってこない。
何かに追われることもない。
日常が、ゆっくり流れていく。

1日過ぎ、2日過ぎ…。
穏やかな生活が定着した。
何だか物足りない。
変なものに、襲われる事もない。
戦わなくてすむ生活。
求めていたのに。
もともと、これが当たり前だったのに。

今、自分の目の前に正義の味方がいる。
『何故こんな事をする!』
自分を睨みつけている。
『許さない!』
必殺技を浴びて、倒れる。
色々な感情が溢れる。
何故と聞かれても困る。
自分が望んだんじゃない。
『退屈だったからだよ』
正義の味方に答えた。
恐らく、これが正直な答えだ。

だが、自分が悪になった原因を聞かれているのであれば、何と答えて良いのか分からない。
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