僕が君にできること
ドアを開け振り向くとその男はあの時と同じように後についてきていた。

あの時とは違うのはそれを期待していた自分がいた。

「一緒にいい?」

『よし!』を待つ子犬のようだった。

「どうぞ」

顔・・・・にやけてないよね。

そんなことを気にしながら先に部屋に入った。


この間と同じ場所に座った。

静かにページをめくる音だけが繰り返された。

私もページをめくったけどあまり内容が頭に入っていかない。

文字と絵を頭に映し流していくだけで何を読んでいるのかわからない。


ズズッ…。


鼻をすする音にまさかと思い振り返る。

目頭を抑え天を仰ぐその男は湯川旬ではなく金本秋生だった。

「いい話や~読む?」

本を差し出してきた。

無理だ。きっとこれも頭に入っていかない。

そう思いながら手を伸ばした。

その手はまた奴に触れた。

その瞬間、その男は本を引っ込め私の手をとった。

「名前。教えてくれませんか?」




< 16 / 54 >

この作品をシェア

pagetop