キスの意味を知った日

助け



「んん~。よく寝た」


そう言いながら、固まった体を天井に向かって伸ばす。

ここ最近、寝不足だった事もあり、横になって少し休むつもりがグッスリと寝てしまった。

時計を見ると、夜の10時半。

いつもなら、まだ職場にいる時間なのに、と思いながら小さく溜息を吐いた。



――…あの、イタズラ電話事件から一週間が過ぎた。

ここ最近は、定時ピッタリに櫻井さんより強制帰宅命令が出ているから、帰宅時間は驚くほど速い。

必然的に少しづつ仕事が溜まってきているから、持ち帰れる仕事は家に持ち込んでいる。


「あ~あ。なんだかなぁ……」


それでも、家で仕事をするにも限界があり、モヤモヤした日々を送っている。

本当は以前のように終電ギリギリまで働いて、達成感に浸りながら帰宅したいのに――。


そんな事を思いながら、冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出す。

こんな気持ちの時は、飲むに限る。

ハァっと大きく溜息を吐きながら徐にベランダに出ると、綺麗な満月が夜空に輝いていた。


「ぷはぁ――――っ!!」


カラカラの喉にビールを流し込むと、無意識にオッサンの様な声を出してしまった。

やっぱり、嫌な事があった時はこれに限る。

酔ってしまえば、何もかも忘れられる。

そう思っていると。


「お前はオッサンか」


静かだった世界に、突然そんな声が響いた。
< 116 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop