キスの意味を知った日







「落ち着いたか?」

「少し」


結局あの後、声を上げて永遠と泣いてしまった私。

まさか上司の前、いや……人前であんなに泣いたのは、自分でも驚きだった。


でも、何故か櫻井さんの前では自分を隠さずにいられる。

心が落ちつく。


泣いている間、ずっと優しく背中を撫でてくれていた彼は、いつもの上司の『櫻井さん』ではなく、初めて会った時の『駆』のように感じた。

その姿に、甘えてしまっていいだろうか。


ぐっと拳を握って、ゆっくりと隣に座る櫻井さんを見つめる。

そして。


「1つだけ、我儘を言ってもいいですか……」


消えそうな私の声を聞いて、あぁ。と言って首を傾げた櫻井さん。

その姿に向かって言う勇気はなく、再び顔を伏せて口を開いた。


「今日……あの……泊まっても……いいですか?」


大胆というか、非常識な事を言っているのは分かっている。

実際これを言うのも、カナリ躊躇った。

でも、今1人になるのは怖い。

部屋の中に1人でいるなんて、耐えられなかった。

最初は美咲を呼ぼうかと思ったけど、この事件を誰かに知られたくなかったし、話したくもなかった。
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