Sion

入学式





中庭を出たあと、二人は急いで教室に向かった。
何人かの人はもう椅子に座っていたり、誰かと話していたりしていた。




希愛はちらりと律花を見る。
友達を作りたいなら今この目に見る風景から考えると出遅れてしまっている。
律花はいいのかなと不安になった。




だが、律花はそんな表情を見せなかった。
笑顔を見せて、希愛を見る。




「もう皆友達になってるね。早いな~」




希愛は思わず手話をしてしまう。




『新しい友達…作らなくていいの?』




希愛がそう言うと、律花は首を横に振る。
そして、じっと希愛を見た。




「希愛は…平気なの?あたしが新しい友達作って…」




そう言われて希愛は戸惑う。
律花がそうしたいならよかった。
だけど、律花が自分の元から去っていったら…




『律花が…いいなら…いいよ?』




そういうことしか言えなかった。
自分の気持ちなんて言えない。
それは律花を縛ることに繋がるからと希愛は知っていた。





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