Sion

この手で包み込んで





優愛が居なくなった部屋はとても静かだった。
どうすればいいのか分からない戸惑いの空気が流れていた。




そんな空気を破ったのは湖季だった。
湖季はポンっと希愛の肩に手を置く。




「…ちゃんと伝えな」




そう言うと優愛を追いかけるように部屋を出ていく。
残された希愛と那由汰




那由汰は口を動かさない。
希愛は緊張で胸の鼓動をバクバクさせながら、ゆっくりと那由汰に近づく。




「…奏…くん…」




「…なんかごめん。変なところ見せて」




希愛はブンブンと首を横に振った。




優愛がああやって那由汰のことを突き放したのは那由汰のことを想ってだろう。
あの言葉には…想いが詰まっていたように感じる。




「優愛さん…良い人…ですね…」




「…俺のせいだよ、優愛にあんなこと言わせて…」




と、那由汰はくしゃくしゃと髪を乱暴に掻いた。




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