アイロンのある風景
☆☆☆☆☆
 幸子がコンビニから戻ったときには、圭吾と恭一は寝ていた。ちょうど中央を開けながら。やれやれ、お酒のつまみを買ったはいいが無駄になった、幸子は咄嗟に思った。
 幸子はつまみを床に置き、ワインを口にゆっくりと含み、頬に手をあてた。今年二十八歳になる彼女の肌は劣化の一途を辿る。それは救いようのない現実であり、紛れもない事実である。なのでワインを飲み、頬を赤らめ、劣化を悟られないように努めるが、二人は寝ている。圭吾は彼氏であり、恭一に至っては彼の職場の後輩でもあり、幸子の上司にあたる、という複雑なデルタ地帯だ。幸子と圭吾が付き合ってることは恭一しか知らない。甘い秘密。
 金曜の夜は大半の社会人が狂喜乱舞する。圭吾の提案で飲み会を開くことになった。一次会はバーで盛り上がり、二次会は幸子と圭吾が同棲する都内のマンションでテレビゲームをすることになった。が、この有様だ。圭吾に至っては口元から涎が垂れ、恭一は甘いマスクを崩すことなく眠っている。圭吾の彫りの深い顔とは正反対。思わず見惚れてしまう、芸術性が恭一の顔にはある。
 いけない。
 圭吾がいるのに妄想に駆られるなんて、と幸子は叱咤する。
 二人に布団を被せ、幸子はアイロンを掛けることにした。ワイシャツ、ブラウス。彼女は静かなときに、静かな自分の世界でアイロン掛けをすることに楽しみを見いだす。さらには、皺が綺麗に、まっすぐに伸びる感じに神秘さを見いだす。これは幸子の楽しみの一つであり、肌の皺もアイロンで伸ばせればいいのに、という思いもある。
 アイロン掛けを終え、幸子は寝ることにした。二人が寝ている中央に入り圭吾の背中に抱きつきながら眠ることにした。電灯を消し、ゆっくり、ひっそりと、布団に潜り込む。圭吾の鼓動が伝わって来る。背後からは恭一の寝息が彼女に降り注ぐ。
 三分ぐらいして、幸子の背中をアイロン掛けのように撫でる感触が伝わる。
 恭一。
 背後には恭一がいるはずだ。
「圭吾さんには勿体ないな、さっちゃんは」
 恭一の甘い声が背後から響く。その声と共に、幸子のブラウスに手が侵入してくる。一気にブラジャーの紐は外され、唯一の自慢である乳房を効果的に刺激され、思わず声が漏れそうにある。
「さっちゃん。圭吾さんじゃなく、俺にしなよ」
 既に幸子の思考は麻痺に陥り、微かに感じる恭一の硬直された陰部がリズミカルに律動していた。
 
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