主さまと一緒に村を歩いていると、そこここから見られている気がしていたが、それよりも好奇心が勝った息吹は軒先に並んでいる野菜を手に瞳を輝かせていた。


「美味しそうな大根!ぶり大根を作ろうかな…主さま食べる?」


「ああ。茄子を買え」


他の野菜に気を取られていると主さまが手に茄子を押し付けて来たので、息吹は籐で編まれた加護に大根と茄子を入れると、戦々恐々の表情で見つめてくる男の店主に笑顔を向けた。


「これを下さい」


「は…はい。十六夜様…お帰りなさいませ」


「…変わりなかったか」


「潭月様がいらっしゃるのでもちろん変わりなど…。い、十六夜様…こちらの方は…」


その間息吹はちょこまか動き回って傍から離れていたのだが、主さまはしっかりと息吹を視界に捉えつつ、口元に笑みを上らせて店主を驚かせた。


「あれか。あれは俺の嫁だ」


「その…鬼族でもなければ妖でもないようにお見受けいたしますが…」


「…それが何か問題か?あれは人だ。だが完全な人ではない。…とにかく俺が選んだ女に不満を漏らすつもりならば、命が無くなる覚悟で言え」


「ひぃっ!も、申し訳ありません!」


土下座する勢いで頭を下げた店主に背を向けた主さまの元に息吹が戻って来ると、きょとんとした顔で主さまに籠を押し付けた。


「どうしたの?」


「なんでもない。次は魚屋だな。あそこには半妖が働いていたはずだったが」


「私、雪ちゃん以外の半妖を見たことがないから楽しみ。仲良くできるかな」


うきうきしている息吹に瞳を細めて小さく笑った主さまが隣の魚屋へ足を運び、奥からそろりと出て来た若い男は主さまと息吹に深々と頭を下げた。


「十六夜様、お帰りなさいませ!」


「ああ。息吹、こいつが鬼と人との半妖だ。妖の血が勝ったために人との暮らしが送れず、親父に連れられてここへやって来た」


「お義父様が?へえ…こんにちは。新鮮なぶりがあったらくださいな」


「はあ…綺麗な方ですね…」


「じろじろ見るな。殺すぞ」


「もお主さま威嚇しないでっ。鬼と人との間に生まれたんだよね?何か不自由はあった?」


半妖は得てして美貌の者が多い。

この若い男は例外ではなく、どこかぽやんとしていたが、凄まじい経歴の持ち主なのだ。


「不自由…ですか。ここに置いてもらえるまでずっとずっと、不自由でした。でも今は幸せです。潭月様には本当に感謝しています」


笑った男の手をぎゅっと握って励ますと主さまは一瞬鼻に皺を寄せたが、何も言わずに空を見上げた。

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