主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまの手は熱く、潤んだ切れ長の黒瞳の中にはゆらゆらと青白い炎が揺れていた。

感情が昂るとそうなることを知っていた息吹は主さまの好きなようにさせて、何度も腹を撫でてくれる手を撫でて主さまの腕に抱かれる。


「早くみんなのとこに行かなきゃ変に思われちゃうかも」


「夫婦が愛し合うことの何がおかしい?そんなだから別邸を探そうと…」


「え?別邸?」


つい口を滑らせてしまった主さまは、身体が冷えないようにと浴衣と帯を引き寄せて着せてやりながら口をへの字にする。

だが息吹の顔が隠し事をされてむっとなったので、言わずにはいられない状況に陥ってしまうとあっさり口を割った。


「…俺とお前しか知らない別邸を密かに探していた。…まだ良い物件は見つかっていないが」


「え…でも…みんなと離れるの?主さまと私だけ?」


「そうだ。…お前とふたりきりになれるのはこの部屋だけじゃないか。俺はお前とゆっくり………なんでもない」


素直ではない主さまがここまで言うのだから、よっぽどふたりきりになりたいのだろう。

それを嬉しく思いつつ、まだ安定期にも入っていない息吹は主さまの固い胸に頬を寄せてくすくす笑った。


「…息がくすぐったい」


「だって…主さまが子供みたいだから。でもうん…主さまが言いたいことはわかるよ。ねえ、もしお腹の赤ちゃんが男の子で…主さまの跡を継いだら私たちはどこに住むの?別邸を探してるんでしょ?じゃあ主さまが隠居したらそこに住もうよ」


息吹の提案になるほどと呟いた主さまは、息吹の顎に手を添えて上向かせると、ふっくらとした下唇を甘噛みして低い声で囁いた。


「早急に探してお前も納得するものを探す。そしてお前を時々そこへ連れ込んで…後は言わずともわかるな?」


「う、うん。主さまの助平」


「子は多い方がいい。俺も子育てに協力する。襁褓の替え方などお前を育てている時から散々やっているからお手の物だ」


「もうっ!その話はやめて!」


寝返りを打って背中を向けた息吹を笑いながら抱きしめた主さまは、息吹の体温が下がらないようにしっかり密着して布団を被った。
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