「椿姫。会いに来てやったぞ」


「……酒呑童子様…」


酒呑童子が護摩壇を使用していた場所から徒歩で十数分ほどの場所にある小さな神社。

鳥居があり、参道を進むと本堂があるのだが――本堂に伸びる一本道の左右に敷かれている砂利には本来妖を寄せ付けない神聖なる力がある。

だが酒呑童子はその被害を受けずに本堂の手前にある手水舎で柄杓を使って水を飲むと、数段ある階の前で正座をしている巫女姿の女を見上げた。


椿姫、と呼ばれた女――

右目の涙の通り道に泣き黒子があり、いかにも病弱で儚く、男に“守りたい”と思わせるような儚げな美女だ。

歳はまだ10代後半と思しき椿姫は、酒呑童子に深々と頭を下げて願いを乞う。


「どうか私を解放して下さい…どうか…」


「俺が解放したらどうなる?親に見捨てられたお前は路頭に迷い、またその能力を恐れられて敬遠されて、くたくたになるだけだぞ。俺はお前を庇護してやってるんだ」


椿姫は顔を上げて酒呑童子をじっと見つめる。

右目には刀傷が縦に走って潰れている。

それでも彼の柔和な印象は消えることがなく、椿姫は再び深々と頭を下げた。


「それでも……私は…」


「お前を化け物扱いして捨てた親に復讐しに行くか?お前は公家の元姫だ。お前の歳ならもう嫁いでいてもおかしくなかった。お前を拾ってやったのは誰だ?言ってみろ」


「……酒呑…童子…様です…」


「わかっているならいい。さあ、今日もお前を頂こうか」


階の前で行儀よく草履を脱いだ酒呑童子は、一歩一歩椿姫に近付いて優しげな笑みを湛えたまま中腰になって椿姫の顔を覗き込んだ。


「こんなに美しいのになあ。俺もお前も…化け物だ」


「……私は…化け物なんかじゃ…」


「何が違うんだ?俺もお前も、化け物だ」


再び同じ言葉を繰り返して椿姫の瞳に涙が浮かんだのを見て喜んだ酒呑童子は、鋭い牙を剥き出して椿姫の首筋に顔を近付ける。


「永遠に傍に置いてやる。俺の食い物として」


誰かと同じようなことを言って、やわらかい肌に牙をめり込ませる。

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ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

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