「椿や、椿姫。そなたはほんに美しく育った。新帝におなりになる相模様に入内してもおかしくないほどになあ」


「お父様…私はまだまだお父様たちの傍で暮らしたいのです。どうかお傍に置いて下さいませ」


産まれた時から肌が真っ白で、今まで美しい美しいと誉められて育ってきた。

恋文は毎に山のように届き、朝廷からの誘いも今まで何度かあったが――引っ込み思案の性格が災いして、屋敷から今まで一歩も出たことはない。


目を忍んで会いに来る男たちとも一切会わず、部屋の前には武装した使用人を置いてけして姿を見せずにやり過ごしてきた。


恋文には目を通してきたが心引かれることはなく、このまま独り身で生きてゆくのかもしれないという一抹の不安を感じつつも、誰かを待っている自分自身に気付いていた。


「私の心を動かして下さる素敵な殿方はいらっしゃらないのかしら…」


日がな本を読み、貝合わせをして女房たちと遊んだりしてゆったりとした時間を過ごしてきた椿姫は、部屋から見える竹林を眺めてため息をついた。

外に出ることを今までしてこなかったが、季節は春で竹林からはうぐいすの綺麗な泣き声が聞こえてくる。


一体外はどんな世界なのだろうか。

外に出てみれば、価値観が変わったり素敵な出会いがあったりするのではないのだろうか。


「誰か…誰か居ませんか?」


意を決して外に出てみようと決めた椿姫は、自室から出て使用人たちを捜してあちこち部屋を見て回ったが誰も居ない。

せっかく決めたことなのだからと十二単を脱いで、それよりもなんとか動きやすい打掛に着替えた椿姫は、草履を穿いてはじめて庭に降りる。


「どこまで歩けるかしら…」


長時間歩いたことのない脚はどこまで耐えられるだろうか?

この先には一体どんなものが待ち受けていて、どんな感動があるのだろうか?


「竹林の方へ行ってみましょう」


うぐいすの姿を求めて椿姫が竹林を目指す。

そこに何が潜んでいるかも知らずに。

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ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

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