竹林はうぐいすの鳴き声で溢れていた。

自室に引きこもってばかりの椿姫からしたらまったくの別世界で、いつもこの鳴き声に心癒されてきたものだ。

だが姿を捜せどうぐいすの姿は一向になく、椿姫の脚は自然とどんどん竹林の奥へと進んでしまう。


「どこに居るの…?姿を見せて下さいな」


緑豊かな竹林は、鬱蒼とならない程度に手入れがされているので薄暗くはない。

葉を踏む感触もはじめて味わったので、音と感触を楽しみながら耳を澄ませてうぐいすの鳴き声のする方へと近付いていく。


もっとこうして早く外に出ればよかったと思いつつも、公家の生まれの自分はいつか家柄の見合う男の元に嫁がされる身。

その前にこうして外に出れたことをよしとしようではないかと自分で自分を納得させた椿姫の脚が、ぴたりと止まった。


「あれは…子供……?」


こちらに背中を丸めてうずくまっている半裸の男の子を見つけた椿姫は、そこが私用地であることを忘れて首を傾げた。

身体が少し動いているように見えるが、俯いたまま顔を上げないし、それに…何かを食べているような咀嚼する音が聞こえる。


一体どうしたものか…

このまま見捨てるわけにもゆかず、恐る恐る子供らしき男の子に声をかける。



「あなたはどなた…?そこで何をしているの…?」


「ん?お前……女か。人だな?人の女は美味い。お前もきっと美味いはずだ…」


「きゃ…っ!あなたは…鬼…!?小鬼……!?」



妖と呼ばれる忌むべき存在。

腰には申し訳程度に布を巻いただけで、額には1本の大きな角が生えている。

背丈はけして高くなく椿姫の半分ほどだったが、獰猛な牙を見せて笑ったその様は、まさしく悪鬼。


「美味そうだ。美味そうだ。美味そうだ!こんなものよりも美味そうだ!」


小鬼の足元には何かの獣らしきものの残骸。

恐れをなした椿姫が後ずさった時、小枝につまづいて態勢を崩してそのまましりもちを突く。

いち早く立ち上がらなければならないのに脚はもつれて、小鬼から視線を外すことができずにただもがいた。


「やめて…、やめて……!」


「ご馳走だ!お前を食ってやる!骨まで食ってやる!!」


小鬼が驚くべき速さで椿姫に襲い掛かる。

悲鳴を上げることも適わずに小鬼ともつれ合った椿姫は、肩に違和感を感じて恐る恐る右肩を見た。


「美味い…!なんだこれは!美味いぞ!」


抉られた肩口。

だが出血はなく、みるみる新たな肉が盛り上がってくる。


「な、これは一体……!」


自分自身を異質だと悟った瞬間だった。

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ファンタジー  妖怪    男目線  切ない  溺愛  きゅんきゅん 

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