夜半を過ぎてからようやく平安町の屋敷に戻った晴明は、庭の見える大部屋で息吹が銀に膝枕をされて寝ているのを見ると、大きく息をついた。


「今戻ったぞ」


「おお、遅かったじゃないか。さっきようやく眠ったところだ。…ここへ戻って来てから睡眠が浅い。疲れが取れない様子なんだが」


「すぐに薬湯を煎じる。…泣き疲れてはいないか?」


「毎日泣いているとも。…俺の前では泣かないが、目はいつも腫れている。晴明…こんなことでいいのか?」


晴明は答えずに息吹を抱きかかえると、身重なのに軽い身体に若干の不安を覚えながら息吹の部屋へと運んで床の上に下ろしてやった。

…日々大きくなっていく腹の中には、次代の百鬼夜行を継ぐかもしれない大切な子が育まれている。


女遊びはそれなりにしたが好いた女には不器用で堅物な主さまがようやく選んだ女。

何度もすれ違いや危機はあったが、今回の出来事をきっかけに考えを改める必要があるのも事実だ。


「私はそなたに幸せになってもらいたいだけなのだ。…息吹…十六夜の傍に居ると疲れるかい?不安かい?」


「……すぅ…」


「もしそうであれば、そなたの心は今後もずっと晴れぬままだろう。それでは駄目なのだ。だが息吹…そなたは椿姫の痛ましい過去を知った方がいい。明日私が話してあげるからね」


――椿姫は壮絶な過去を背負っている。

故に酒呑童子と敵対関係にある主さまを利用してぶつけ合って、酒呑童子から逃れようと懸命になっていたのだろう。


だが…それは成功するのだろうか?

あの様子では――心から願っているようには見えない。


「主…………ま…」


「…痛ましいことだ。椿姫に同情はするが、私にとっては娘の方が幾倍も大切なのだ」


晴明も疲れ果てていた。

調べなければならないことも多く、また主さまへの治療を行って心身共に疲れてしまい、いつの間にか息吹の隣に寝転んでそのまま眠ってしまった。


「子守りしている間に親も眠ってしまったか。まだまだ童だな」


達観した銀は、息吹の隣にもう一組床を敷いてやると晴明を寝かせて部屋を出る。


皆が憂いを抱えている。

主さまと息吹の幸せを願って――

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