幽玄町の主さまの屋敷で息吹が帰ってくるのを今か今かと待ち受けていた雪男は、若葉を抱っこしてあやしてやりながらずっと空を見上げていた。


「まだかよ…ちょっと遅すぎなんじゃ…。まさか危険な目に…!?」


「少し落ち着きなさい。十六夜がついている限りはそのようなことは起きぬだろう」


待ち受けていたのは雪男だけではなく、もちろん父代わりの晴明もだ。

母代りの山姫も朝からずっとそわそわしながら掃除をしていたし、百鬼に至っても鵺や猫又といった獣系の妖は庭をうろついてねぐらに帰らず息吹を待っている。

銀は縁側に寝そべって関心のないふりをしながらも、ちらちら空に視線を遣って寝たふりをしていた。


「あ!見えたよ!息吹だ!」


山姫が声を上げて皆が一様に空を見上げると、真っ黒で大きな八咫烏が見えた。

背中には主さまと息吹が乗っていたのだが――皆は主さまが帰ってきたことより息吹が帰ってきたことを喜んでいた。


「周様はとっても怖い方なんだ。あたしはいじめられてやしないかと心配で心配で…」


「いや周様はとても気持ちのいい方だよ。ただ気に入らぬ者には毒としか言いようのない気性だが」


空の上の息吹も皆が庭に降りて手を振っているのが見えたらしく、大きく手を振り返して元気なことを主張していた。

そして庭にふわりと舞い降りた八咫烏の背中から降りた息吹は、まず晴明に駆け寄って真っ白な直衣の袖を握って瞳を輝かせた。


「父様!ただいま戻りました」


「お帰り。その様子では楽しく過ごせたようだね」


「はい。潭月さんもお義母様もとっても面白くて優しい方でした。私、お義母様と夜通しお話をしてたんですよ」


「息吹!遅かったから心配したんだぜ。会いたかった」


直球の想いを口に乗せた雪男はまだ小さな童子の姿だが、息吹は雪男の小さな身体を抱きしめて慌てさせた。


「ただいま雪ちゃん。若葉のお守りをしてくれてたんだね、ありがとう。あれ?雪ちゃん…ちょっと背が伸びた?」


「そうなんだ、ちょっと大きくなったと思う。早く大きくなってお前を守らなくちゃっていつも思ってるからかな」


――外見は童子だが、中身は成人した雪男のままだ。

息吹はそれを忘れているのか、愛の告白めいたことを言われてもにこにこしていて、主さまはきりきり。

雪男の首根っこを掴んで持ち上げると、大人げなく牙を剥いた。


「息吹から離れろ。熱湯をかぶせるぞ」


2人は相変わらず犬猿の仲。

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