それでも彼が好き
「どうして黙っていたの?」

私は黙って下を向いた。

「怒られるかと、思って…」

渉はため息をつくと、

「ばか。小学生じゃあるまいし、隠そうとする奴が、どこにいるんだよ」

私は、泣きながら謝った。
「ごめんなさい。」

「俺は、病気になったり、怪我したことでは、怒らない。でも、それを隠したり、俺の忠告を守らなかった時には怒る。覚えときなさい」

渉はまだ、怖い顔のまま。

「わかった?」

私が顔を上げると、いつもの顔をした渉が両手を広げてくれていた。

私は、首を縦にふると、渉の腕の中に飛び込んだ。

今日は、ごめんなさい。



切り傷(完)

< 35 / 51 >

この作品をシェア

pagetop