竜王様のお約束
ジュウシ
ヤヨイの隣で黙ってこのやり取りを聞いていたリョクの、片方の眉がピクリと動いた。


『妻を娶る？
竜王になるのには、妻が必要なわけ？』


チラリと母を盗み見るも、何の疑問も抱いていないようで、父とコクリュウの会話を静かに見守っている。コウ叔父様も、イオリという女性も、この話の内容を当然の流れとして受け取っているように見えた。


いてもたってもいられないリョクは、母のドレスの袖を、クイックイッと遠慮がちに引っると「母様、母様･･･。」周りには聞こえないように配慮しながら、ヤヨイを呼んだ。


ヤヨイは僅かに膝を折り、リョクの顔に近づく。


「コクリュウが竜王になるには、結婚しなくちゃいけないの？
どうして？」


「そうねぇ･･･。」


リョクの問いかけに、ヤヨイはとても困ってしまった。リョクの質問に答えてあげたい気持ちはあるが、話したところで年端もいかないリョクに、理解できるかどうか。それにリョクは人間として育ってきたのだし、これからもそうするつもりだ。今更天界の理を教えて、混乱させるのもどうかと思う。


しかしながらリョクが聞きたいのは、そんな小難しい話などではなかった。単純に、コクリュウが小さく言い放った”妻”という単語の意味だけなのである。


はたと、その事に気づいたヤヨイは、リョクの気持ちを確かめるかのような質問を返した。
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