†captivity†(休載)
──意識
心くんの家に着き、インターホンを鳴らすけれど、反応がなかった。
あれ、更新でずっと家にいると思ってたのに、お出かけしてるのかな?
そう思っているあたしの隣で、もう一度インターホンを鳴らす奏多くん。
「奏多」
そう先輩が呼ぶと、奏多くんは頷き、鍵を取り出す。
え?
鍵を……取り出す???
そのまま鍵を差し込み、ガチャリ、と音がして、鍵を抜く。
あたしの頭の中は混乱しかなかった。
「奏多は更新中の心の食事を作りに来るから、合鍵持ってる。アイツ少しの音や刺激には気付かないから」
そう言ってドアを開きサッサと家の中に入っていく二人を見て、あたしは呆然と立ち尽くしてしまっていた。
合鍵って……いや、うん、理由はわかるけど、奏多くんの方が彼女力が高いというか……うん。
敗北感。
あたしの方が、彼女なのに。
「和歌……?」
「あ、いや、ごめん……入っていいの?」
「事前に、心には入れていいって、聞いてるから、大丈夫」
そう言ってさらりとあたしの手を取り引いて招き入れてくれる奏多くんに、恐る恐るあたしも足を踏み入れる。
「……お、お邪魔します」
家主が見えないのに家の中に入ることは、ちょっと躊躇いがあるけれど、部屋に入って心くんの姿を見たら納得してしまった。
先に入っていた東先輩の存在にも気付かず、もちろんあたしと奏多くんにも気付かず、ひたすら教科書の活字に目を通しているその姿に、見入ってしまう。
奏多くんはその場を少し離れたかと思ったら、その手にあるものを握り締めて戻って来た。
「奏多くん……?それは?」
「心を、現実に戻す、道具」
その手には、ピコピコハンマーが握り締められていた。