瑠哀 ~フランスにて~

-3-

 ここ数日、屋敷内は何事もなく静かだった。

 マーグリス達は瑠哀に言われた通り、決して屋敷の外には出ず、屋敷の中にいても必ずガードを付き添わせて過ごしていた。


 その間、瑠哀は何もせず、ただ部屋にいた。

 もちろん、朔也とピエールはその瑠哀から一時も離れることはなかった。

 二人とも、瑠哀の上っ面だけの微笑に、かなりの疑念を持っていたのだ。


 朔也達と会話をしているし、ユージンとも仲良く遊んでいる。

 ―――が、何かが変だ、と二人とも気付いていた。

 その何か、とは、はっきりと判らなかったが、本能的な危険信号が点滅していた。


 そんな中、今朝、マーグリスに呼ばれた。

 マーグリスは瑠哀に、全てあなたの言う通りにさせました、と告げた。


 瑠哀はそれに、口端だけを上げた壮絶な薄い笑みを顔に浮かべていき、静かに礼を言ったのだった。


「―――ちょっと、シャワーを浴びてくるわ」


 瑠哀がそれだけを言って、座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりと自分の寝室に向かい出した。

 寝室と客室をつなぐドアをパタンと閉め、その奥でまた扉の閉まる音が聞こえた。


「―――サーヤ、どうするんだ?」


 ピエールが、瑠哀が消えると同時に、少し難しい顔で朔也に向き直った。


「どうしていいのか判らない、と言うのが正直な意見だな。

今のルイにはなんとも不穏な空気が漂っている感じがしてならないんだ。

俺達の声が届いていないと思うのは、俺の気のせいではないだろうしね」
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