瑠哀 ~フランスにて~

-2-

「こっちだ。動けっ」


 グイッと、乱暴に、縄で縛られている瑠哀をリチャードが投げ飛ばすように前に押し出した。

 夜通し車を走らせて、もうそろそろ夜が明けだし始めようとしていた。


 キィーッと、停まった車から瑠哀を引きずり下ろし、

その腕を引っ張りながらリチャードが連れて来た場所はどこかの港らしき場所だった。

 近隣には、たくさんのヨットが岸に並べられていた。



 グイグイと瑠哀を引っ張りながら、リチャードが小屋や倉庫の合間を抜って、

小走りに掛け抜けて行く。

 人目を避けてか、トラックの後ろや地上に上げられているヨットの合間を抜いて、

奥へと進んでいた。


 誰かそこらを歩いている人気がないかを目の端で探すが、

シーンと静まり返ったその場所は、到底、人が通っているような気配さえない。


 慎重に、リチャードの隙を伺っているが、未だ、その隙を見せようとはしない。

 瑠哀の腕を無理矢理引っ張りながら、数秒毎に握っている拳銃を瑠哀に押し付けることを忘れはしなかった。

 下手な真似はするな、とその焦りに駆られた目が、

尋常ならぬほどの不気味な色をして瑠哀を押さえ付けていた。



 ブオン、ブォンウォン――――。


 鍵を何度か回し、リチャードが飛び乗った一隻のモーターボートのエンジンがかかる。


「逃げ切れるはずがないわ。無駄なことはやめるのよ」

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