瑠哀 ~フランスにて~

-2-

「―――ミサキ嬢!!」



 瑠哀がダンスを終えて戻って来ると、どこから名前を呼ぶ声がした。

 こっちに歩いて来る男は顔ににこやかな笑みを浮かべて、瑠哀の前にやって来た。



 見覚えのある顔で、瑠哀は思わずそっぽを向いてしまいそうになった。


「ミサキ嬢ではありませんか。こんな所でお会いするとは、奇遇ですね」



 男はまだにこやかな笑みを崩さない。

 この笑みがなんとも怪しげで、瑠哀はできればこの男とは関わり合いになりたくないのだが、今は仕方がない。



――――挨拶だろう……。



 瑠哀は仕方なく手を上げた。


 男はその手を取ってキスをする。


「本当にこのような場所であなたにお会いできるとは、思ってもいませんでした。

今日はまた一段とお美しくあられて。

取り巻きもまた、華やかで」



 男がピエールと朔也に眼を向けたので、瑠哀は彼らを紹介すべきがどうか迷った。

 明らかに、ピエールは不機嫌そうな顔をして男を冷たい眼で見ている。



 やはり、紹介すべきではないのだろう………。



「この男、何?」


 ピエールは男の存在をあからさまに無視して、瑠哀に聞く。


 男はそれを別に気にした風もなく、瑠哀が言い出す前に喋り出した。


「申し遅れました。私は、フレドリック・ヴォガーと言います。どうぞよろしく」


 これには何の返答も返ってこなかった。

 男は軽く肩をすくめ、瑠哀にもう一度向き直る。
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