「とりあえず乾杯しよう」

「うん」

私たちは缶のまま乾杯し、ビールを喉へ流し込んだ。

「あーうまいっ」

彼は溜まった今日の疲れを、その一言に凝縮して吐き出すように言った。

「なるべく早く終わらせて、凪(なぎ)ん家へ行くから」

私を思ってそう言ってくれた彼のメールに、良心がちくりと痛み、せめて夕ご飯くらいは頑張ろうと、自分なりに腕をふるった料理を小さな丸テーブルに並べた。

「あーうまいなぁ。幸せ」

彼はほくほくとした表情で、料理をつまんでいる。

なのに、私の心は締めつけられるばかりだった。



心配していたことが、現実になった。

先日、今や人気モデルとなった元カレのリョータと再会し、一緒に買い物をしていたことがSNS上で話題になってしまい、そのことが週刊誌に掲載されてしまったからだ。

「凪に直接迷惑がかかるようなことはないと思うけど……ごめんな」

週刊誌の発売前、リョータからの電話に頷くしかなかった。



「続いては芸能ニュース」

テレビから聞こえたアナウンサーの声に、びくんとした。

テレビの向こうには、芸能リポーターに囲まれているリョータがいた。

「お買い物デートが噂になっているようですが」

「みたいですね。ただ買い物していただけなんですけどねぇ」

「ずいぶんと親しげだったようですけど?」

「友達ですからね。親しいですよ、そりゃ」

「特別なご友人ということですか?」

「そうですね、特別ですね」

その答えに、リポーター陣が「おおっ!」と声をそろえた。

「それはつまりお付き合いされているということで、よろしいんですか!?」

「いえ。僕の一方的な片思いです」

そう言うと、リョータはカメラに向かって一瞬にやりと笑った。

「その恋は実りそうですか?」

「お知り合いになったきっかけは?」

矢継ぎ早に繰り出される芸能リポーターの質問にそれ以上は答えず、リョータは会場を後にした。



鼓動が異常に早くなっていた。

とりあえず、残っていた缶ビールを飲み干した。

隣りに座る彼を、ちらりと見る。

視線に気づいた彼が、「ん?」と首を傾げた。

「う、ううん。なんでもないよ」

笑顔で取り繕うと。

彼がそっと私の頬にキスをした。

思わず目を見開くと。

「ごめん。俺、酔ってるな。本能のままに動いてる。凪がかわいかったから、つい」

彼は、わしゃわしゃと頭をかいた。

罪悪感に苛まれた。

それでも、カメラ越しに見たリョータにときめいてしまった自分は、もうどうしようもない悪女にしか思えなかった。






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