銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
始祖の神
 そう言うなり、ヴァニスは大股でヒョイッと段差を飛び降り、ツカツカとあたしの横を通り過ぎていく。

 そして部屋の半分も過ぎた辺りで、あっけに取られるあたしを振り返った。

「来ないのか?」

 ……いや、そんなあなた突然、『来ないのか?』って言われても。

 どこへ? なにしに? なんで?

 って基本事項をまったく聞いてない以上、簡単に『行く』とは言えないわよ。

「来ないのなら、また牢屋へ逆戻りだぞ」
「え?」

 逆戻り? あの場所へ?

 あの悪臭漂う四角い箱が置かれている、あの牢屋へ?

「ついて来るなり牢屋へ戻るなり、お前の好きに選ぶがよい」
「行くわ!」

 速攻で返答したあたしは、慌ててヴァニスの後を追う。

 ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
 あんた歩くの早いのよ! こっちは不慣れなロングドレスなんだから!

 ドレスを軽く摘み上げながら、あたしはパタパタと急ぎ足で彼に追いついた。

 控えていた兵士が開けてくれた扉をくぐって、ヴァニスの後ろをおとなしく歩きながら通路を進む。

 ほんと、急にどこへ行くつもりなのかしら? この男の考えって、まったく読めなくて不安になる。

 何をするつもりなのか質問しようと思ったけど、あたしとヴァニスを取り巻いている周囲の異様な様子に気がついて、思わず声が引っ込んでしまった。

 通路の両脇に、城内の人間達が、ずらあ~っ!と整列している。

 皆一様に深く頭を下げ、かしこまっているその雰囲気についていけずに、ただ無言で歩くしかなかった。
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