愛の裏返し
始まり
 「速報が入りました。先程、東京都板橋区に住む25歳の女性宅からその女性だと思われる遺体を発見。警察は、遺体の側に佇んでた34歳の会社員男性を緊急逮捕しました。中継が繋がってます」
 街頭のテレビから女性アナウンサーが、緊迫した声で事件を伝えてきた。
 画面は、中継先の板橋区の住宅地が映し出されていた。マイクとバインダーを持った男性アナウンサーが画面に映った。
 「はい。先程、こちらの家に住む24歳の女性の遺体を近隣の通報により、警察が発見しました。女性の側に立っていた34歳の会社員男性を逮捕した模様です。こちらの入手した情報では、男性は女性の交際相手だったそうです。それが、動機にひとつになったそうです」
 「分かりました。また情報が入り次第、伝えて下さい」
 画面は中継からスタジオに戻った。
 愛は、憎悪の裏返しである。また、その逆もしかり。愛と憎悪は、紙一重の存在だ。だから、愛は罪であって、罪ではない。誰もが犯すべき犯罪なのだ。
 そんな考えを思い浮かべながら、新宿駅東口中央広場にいる山中貴幸(やまなか たかゆき)は赤くなった手を擦って、冷たくなった手を温めようとした。
 寒い。
 2013年1月。まだ寒い時期だ。
 貴幸は手袋を家に忘れてきたことを後悔していた。吐く息が白い。時刻を見ようと、ポケットのスマートフォンを取り出そうとした。
 痛い。
 ポケットと冷たくなった手が擦れて、痛みを感じてたのだ。寒さのせいで動きがぎごちない手で、スマートフォンを取り出した。
 11時。スマートフォンの画面には、貴幸と恋人の千歳奈美(ちとせ なみ)が笑顔でピースをしている写真が映し出されていた。
 「寒い」
 思わず、声に出てしまった。
 「チクショー。奈美の奴、何してんだ」
 貴幸と奈美の久し振りのデート。年が明けてから、お互い忙しくなってしまい、会える機会がなかった。
 貴幸と奈美は、高校からの付き合いである。軽音楽部が、貴幸と奈美の初めての出会いだった。貴幸は軽音楽部に入部し、ギターを弾いていた。同じく奈美も軽音楽部に入学した。奈美は、ボーカルとピアノだった。一緒にバンドを組み、ライブを行った。それが、いつしか付き合うようになったのだ。
 高校3年。お互いそれぞれの進路に進むと思われた。進学により、離れてしまうと思った。だが、偶然にも同じ大学を受験していた。二人とも本当に驚いた。お互い、進路については話すことはなかったからだ。
 それで、合格した貴幸と奈美は、大学でも関係を継続していたのだ。
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