かぐや皇子は地球で十五歳。
第7章 サ○ヤ人の終焉。
 ゴールデンウィーク最終日、退院の朝。片付いた病室で俺は地球の重力総てを背負い込み、とびきり重い溜め息をついた。長い入院生活からようやく開放され、帰れば手付かずの新作ゲームが待っているというのに最後の休日を掻き乱す悪夢が舞い降りたのだ。

「晃~!お前の叔母さん、超美女!(巨乳)美女!」

 なんで坂城がいるの!?
 朝から気分を逆撫でするような、この馬鹿っぽい声!
 しかもこいつ無駄にお洒落してきちゃってるんですけど、何事?ジャージの俺立場ないんですけど!サッカー部がホンダよろしくテーラードジャケット着るなよ、てっかてかのスカジャンでも羽織っとけ!

「坂城くんのチェーンウォレット可愛い。ブランド物?」
「違う違う、安物にちょっと手を加えただけ。」
「しゅごーい!坂城くんて、何でも出来ちゃうんだね!」
「そ、そんな誉めるなやいっ。」

 怪我人の前でゆかりとイチャつかないでくれる!?

「晃くん、ちょっと……いい?」

 一階の会計受付が混んでいるのだろう、アメリがなかなか戻ってこない。常勤ナースに呼ばれこれ見よがしに退室し、またゆかりから見える位置で話し込んだ。

「へぇ…お前随分、巨乳ナース捕まえたなぁ。何?週末デートとかしちゃうわけ?」
 戻り際で坂城が詰め寄る。
「お前に関係ないだろ。大体さっきから何?巨乳好きか!」
「巨乳はあればラッキー程度だ。俺はなくてもイケる。」

 あはは~?とケラケラ笑う坂城に肩を抱かれ悪寒が走った。馬鹿の企みは一目瞭然だ、完全にターゲットが栗林からゆかりに刷り変わっている。
 なくてもイケるって、ゆかりちゃんは本当にペッタンコだからね!
 煩わしさのなかに僅かながらも切迫感を感じつつ病室へ戻るとアメリと鉢合わせになり、そのまま病院を出ることとなった。


──────────パン、パーン!

「…………。」
「退院、おめでとう~!」

 久し振りに帰ってきた我が家の玄関口ではクラッカーの洗礼、俺のプライベートゾーンは原色折り紙で作られた輪っかの飾り付けが施され、軽食サンドイッチに焼き菓子、二リットルのケトルが二つ、完璧なまでの長居セットが置かれている。極めつけが仁王立ちの栗林。

「湯浅くん家、お洒落すぎ!第一、何?あのイケメンな叔父さん!無駄にキッチン往復しちゃったじゃない!」

 勝手知ったる?すっかり溶け込んでるよ!?つーか、それ俺のスリッパ!

「あはは、ゆかりちゃん良かったな!晃驚きすぎて開いた口が塞がらねーぞ!」

 あはは、じゃねーよ馬鹿坂城!ぬしより先に上がり込んでエロ本探さないでくれる!?

「はぁ……。」
「湯浅くん、紅茶入れる?麦茶もあるよ。」

 はい。とコップを差し出すゆかりは美貌を惜しみ無くさらけ出し満面の笑い顔。俺が喜ぶだろうと計画したんだろうが、こんなガキの集まり嬉しくも何ともないんだよ。

「それでさぁ~、あのパンダ野郎が……」
「あのオチは笑ったよねー!」
「そこの二人、映画のネタバレしないでくれる!俺まだ観てないんだからね!」

 退院祝いは結局六時間、夕刻まで続き開放されたのは夕陽が綺麗な午後5時だった。坂城と栗林を見送りにゆかりが部屋を出て、ようやく一人にされた俺はゲーム機には目もくれずベッドに撃沈だ。

(つ、疲れた………………けど。)

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