かぐや皇子は地球で十五歳。
第9章 一度壊れたら、難しいもの。
「申し訳ございませんでした。」

 感情を無くしたリヤドロ人形のようだ。
 糸に吊られた美しい操り人形は一礼し、螺旋階段をタンタンと上っていった。
 母を失い、空囮の歴史を学んだゆかりはこの一週間目を瞑りたくなるほど痛々しい。食事を取らず白濁した飲み物ばかり口にし、その一方でシンデレラのように健気に働く。学園では孤独に廊下を彷徨い、雅宗やアメリを気遣い笑うアッシュブラウンの瞳は色即是空に近い。

「やけに大人しいと思ってたら、この日を待ってたのね。」
「本気で自殺を考えていた訳じゃないだろ。これくらいの我が儘、笑って許してやるべきだと思うよ。……そうだろ?晃。」
「だから、怒ってないってば!」
「本当に~?」

 ゆかりは出生時の蘭昌石を探しに自宅へ戻ったと話したが、そんな言い訳大人達にも通用しない。小さな石ひとつ見つけ出すのなら陽の明るい日中が探しやすいだろ。ソファで籠城していたのはバレバレだ、テーブルには分かりやすくホットミルクの入ったマグカップが置かれていた。極めつけが右手に握りしめられていた蘭昌石。故意に死者を呼び寄せていたのだろう。まさか覚醒前のゆかりに出来るとは思わなかったが────剣を錬成できたくらいだ、雑作もないこと。
 本気で死ぬつもりじゃなかった?
 実母の失踪。対の忌み子の虐遇、初めてできた友達すら仮初めだったと誰も信じられず、支えをなくした思春期の女子中学生なら本気で考えるさ。
 況してや、忌み子。
 些細な切欠で闇に誘われる。

 でも俺はゆかりの心に深入りはできない。
 慰めることもできない。
 守ることも、支えることもできない。
 思いきり泣かせてあげたい。俺がいるからって、抱き締めてやりたい。
 もどかしくて気がおかしくなりそうだ。
 
 それでも、俺は──────

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