Octave～届かない恋、重なる想い～

すれ違う2人

　私があっけにとられている間に「行ってくる」と出ていってしまった。

　今の言葉の意味を考えて、また悲しくなった。

　子どもはいらない、だから子どもができるようなことは一切なしという約束をしたのは雅人さん。

　周りからは「子どもはまだ？」というプレッシャーが容赦なく与えられる。

　雅人さんは、何と言ってかわしているのだろう。

　もし私にその質問があったら、私は何て答えたらいいのだろう。


　独身の頃は「採用試験に合格できた？」「結婚は？」と追及されるのが嫌だった。

　結婚すればこのふたつからは逃れられると思っていたけれど、次はすぐに「子どもはまだ？」が待ち受けている。

　そんな個人的なこと、ほっといてほしいのに。


　私達だけの問題だと思っていることは、家族みんなの問題となり、有権者の関心事となる。

　好きなだけ、一緒に暮らすだけ、美味しいご飯を作るだけでは許されない。

　結局私はいつも、雅人さんの陰にかくれているだけだった。