セク・コン~重信くんの片想い~
1話 まさかの失恋!?

 高校2年の夏、萩本 重信(はぎもと しげのぶ)の淡く切ない初恋は、あっけなく幕を閉じた。
 小学校からの幼馴染み、井本 恵太(いもと けいた)に、突如彼女ができたのだ。

「ハギ。彼女できた」
 照れ臭そうに頭を掻きながら、いつもの帰り道、恵太は重信に打ち明けた。
「へ……?」
 驚きとショックで何も言い返せずにいる重信を見て、恵太は勘違いしたらしい。
「だ、大丈夫だって! 彼女ができたっつっても、今まで通りハギとは変わんないから! これからも俺はダチを蔑ろにはしないよ?」
 今まで全く色恋に興味の無さそうだった恵太に、一体何が起こったのか。
 けれど、彼が重信を親友を思い、信頼してこの事を打ち明けてくれたのは間違いないだろう。
「そ、そうか。良かったな」
 重信は、なるたけ恵太に何かおかしいと勘付かれないようにと、平静を装い、なんとかそう答えた。
「ありがと」
 恵太はどこか嬉しそうだ。
「で、相手は?」
 本当は聞きたくない気持ちでいっぱいだったが、ここで相手を訊ねないのも奇妙なので、取り敢えず重信はそう問いかけることにした。
「それがさ、俺と同じクラスの大西 美雪(おおにし みゆき)って子なんだけど、ハギ知ってる?」
 目をキラキラと輝かせて話す恵太の横顔は、いつの間にか重信の知っているものより少し大人びて見えた。
 重信は黙って首を横に振る。
 重信は、切なげに恵太のそんな横顔をじっと見つめた。
 サラサラの少し茶味がかった天然の髪も、色素の薄い頬も、その全てが重信の鼓動を速くさせる。そして、そんな髪や頬に幾度触れてみたいと考えたことか。
 恵太とのこうした友情という絆で強く結ばれていると思っていた関係は、いつまでもずっと続いていくのだと、確証もなく勝手に考えていた重信だったが、その考えはここに来て見事に裏切られた訳だ。
「美雪はさ、どっちかっつうと苦手なタイプだと思ってたんだけど、同じ委員会にあたって話してみると、意外に意気投合しちゃってさ」
 余程美雪のことが好きになったのか、恵太は嬉しそうに次々と彼女とのエピソードを話し始める。
(その美雪って子より、俺との思い出の方がいっぱいあるだろ!? 俺の方がお前のことよく知ってるぞ!?)
 決して口には出せない気持ちを噛み締めたまま、重信はなんとか頷くことでそれをやり過ごしていた。
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