セク・コン~重信くんの片想い~

4話 重信のカルシウム大作戦!


「アオイは?」
 重信は、きょろきょろと2ーCの教室内を見渡した。
「さっき教室出てったぞ?」
 恵太がまたか、という表情を浮かべて重信を見る。
 実は、あの妙な組み合わせで学食を共にした後、どういう訳か重信とアオイの間に友情が芽生え始めていた。
 ……というのはアオイ側の見方であって、一方の重信は少しでもアオイにお近付きになりたい、という別の感情が含まれている訳だがということで、どうにか友だちという名目で、”塚本アオイ”というフルネームと、ついでにメアドまで見事に手に入れた重信は、今やアオイの忠犬と化していた。
「ハギ、お前、まるでアオイの忠犬みたいだぞ? アオイになんか脅されたんじゃないだろうな?」
 と、恵太が思わず心配する程の忠犬ぶり。
「いや、別に……」
 まさかアオイのことが好きになってしまった、なんて口が裂けても言えない重信は、
「なんとなくアオイの身長のばしてやろうかと思って」
なんて、適当なことを言ってその場を誤魔化す。どう考えたっておかしな言い分だが、そこは天然男之恵太だから、
「ふぅん」
と、特に突っ込むでもなく、すんなり聞き流してくれたから、重信は少しほっとして胸をなで下ろした。
けれど、重信の言っていることはまんざら嘘でもなくて、彼の手にはしっかりと飲みきりサイズの牛乳パックと、カルシウムたっぷりビスケットの袋が握られている。

「あ、そうそう。ハギ、昨日新聞屋に映画のタダ券貰ったんだけど、映画観に行かない?」
 恵太が思い出したように、ズボンのポケットから折り畳まれたチケットを取り出した。よく見ると一枚で四名まで使える特典チケットだった。
「美幸ちゃんと行けよ」
 重信だって、野暮じゃない。最近上映が始まったばかりのヒーローもの”バードマン”は丁度観たいと思っていたが、今の恵太にほ歴とした彼女がいる訳で、彼女を差し置いてまで自分が恵太と映画を観るなんてとんでもない、と重信は思った。
「美雪ほもう誘ってあるよ。でもこのチケット四人まで使えるんだぞ? 勿体ないだろ。ほら、それにハギ、バードマン観たいって言ってただろ?」
 正直なところ、重信は返答に困っていた。
 恵太と美雪が仲良さそうにしているのを目にしても、もう胸が痛むことはなくなっていた。……というよりけは、今は寧ろ二人に幸せになってほしと素直に思えるようになっていた。
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