一夜花
一夜花
 早朝の光が煎餅布団の上にも差し込む。
 
浅いまどろみを妨げらた浩一は、自分の腕の中の空虚感に呻いた。

「月……」

 まだ残る温もりの感覚を持て余して鉢を見上げる。
満開を既に終え、しぼみかけている一輪が哀れに映った。

「つき」

部屋中に夜色の香りがまだ残っている。
彼女が確かに『居た』ことを示す、脱ぎ乱れた赤いサンドレスも……

しまい忘れていたビールが部屋の隅に転がっていた。
浩一は乱暴にパケを破り、温まりきった一本を呷る。 

「まずい」

 涙腺から、ビールと同じ生暖かさの液体があふれ出す。


 この一輪は、実を結ぶことすらない。
それでもたった一夜を、愛する男の腕の中で咲きたいと願ってしまった……

「月、お前は綺麗に咲いてくれたよ」

 浩一がしおれた花弁に唇を寄せる。

「この世で一番綺麗な、俺だけの花だった」

 願いどおり、たった一人のために咲き乱れ、咲き誇り、その姿を愛する男のまぶたに刻み付けて……

 はらりと一翼の花弁が畳に落ちる。

「月……」

 それを追うように涙の一滴が、ぱたりと、落ちた。
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