一夜花
夢想
 鮮やかな赤いサンドレスは夏の日差しに良く似合う……

 公園の並木の下を跳ねるように歩く月には、儚い一夜花の面影は無い。
 南国の強い陽光に揺れる真っ赤なハイビスカスのような陽気さで、浩一を翻弄する。

「浩一さん、大変です! ワンちゃんです!」

 散歩途中の子犬にじゃれ付かれ、自分も子犬のようにはしゃいで相手をする無邪気な姿に、浩一も思わず笑顔になる。

『浩一さん、大変です』
 もう何度この言葉を聴いただろうか……

 目に映るもの全てを大事件のように伝える声が、そのたびに『笑顔』という魔法を彼にかける。
 月が驚きと共に浩一に伝えるのは、透き通るほどに新鮮な喜びだった。

 彼女を呼び寄せた浩一は、その口調を真似る。

「月、大変だ! アイスキャンディーだ!」

「アイスキャンディー?」

 木陰に立てかけられた自転車の荷台にくくりつけられた、大きなクーラーボックス。
 染め抜きののぼりをつけたそれに、月はきょとんとした。

「甘くて、冷たくて、こんな暑い日には世界で一番美味い食べ物だ」

「食べ物……」

 ぱっと表情が輝く。

「食べれないか?」

「いえ、この姿なら食べられると思います。思いますけど……」

 言葉を飲み込んだ彼女に、浩一は飛び切りの笑顔を降らせた。

「月、人間のオンナノコは、男にわがままを言っても良いんだよ」

「わがまま……」

「むしろ、言わなくちゃいけない。そういう決まりがあるんだ」

 くすくすと笑声混じりの茶化すような口調に気づいて、月も再び笑顔になる。

「浩一さん、アイスキャンディー、買ってください!」

「お前はわがままだなぁ」

 笑いながら買ったオレンジ味のそれを、浩一は夏草の上に座らせた彼女に渡した。
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