こいのはなし
プロポーズ


走りながら腕時計を見る。

一応メールで「遅れる」と断りを入れたけれど、約束より一時間も遅くなってしまった。



約束の場所は彼と私の会社の丁度中間にある公園。

この辺りでは比較的広く中央に噴水があって、遊具はほとんどない。

しかし昼間は人で賑わっていて小さな子供たちが水遊びをしていたり、周りのベンチには散歩疲れのご老人が涼んでいたりする。

今はその光景が嘘のように公園自体が眠ってしまっていて、微かな風によって水がゆれる音しかない。


その噴水の近くにぽっかりと黒い影が浮くように立っている。

園内の淡い外灯では、本来あるスーツの色も闇色に染められてしまうようだ。

黒い影が携帯灰皿を片手に紫煙を燻らす彼だとわかると、申し訳ない気持ちが途端溢れて、足取りが重くなる。

そうでいて、待っていてくれたことが、頬にかすかな熱を持たせる。


「遅い」


嘆息を落とした彼の不機嫌な声。

しかしごめんと素直に謝れない。


「前回は私が、二時間―――待ったよ?」


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