涙のあとの笑顔
ぬいぐるみと買い物
 自分より先にイーディが私のところへ来ていたので、ケヴィンは不満げな様子だった。

「何か言いたげね、ケヴィン」
「仕事は?」
「今しているわよ?」

 しているように見えないと無言の眼差しを向けていた。

「フローラを独占しているようにしか見えない」
「フローラの世話をするようにと、ご命令を受けたの」

 そうだったんだ、全然知らなかった。

「だからいいの。わかった?」

 イーディに返事をせず、私の前に来たかと思えば、抱きしめてきた。
 何で毎回抱きしめるの?
 もうこの人の癖は直らないだろうな。

「何しているの!?」
「可愛い子が誘ってきたから」
「やめなさいよ!」
「やめると思う?」

 まず誘ってなんかいない。
 どこをどう見たらそうやって勘違いすることができるの!?
 イーディをみると、苛立ちを隠さず、おまけに歯ぎしりまでしていた。

「ずるい、私も!」

 何をするのかと思えば、イーディまで私を抱きしめた。
 イーディまで抱きつかないで!
 二人揃って何をしているの?私はぬいぐるみじゃない!
 いや、彼らにとってはぬいぐるみのようなものか。

「イーディ、どきなよ。フローラが苦しがっている」
「ケヴィンが邪魔よ!さっさと出て行って!」

 この二人は仲が良いのか悪いのかわからない。ことあるごとにこうして言い合いをして、なかなか止まらない。

「二人とも、苦しい・・・・・・」

 いい加減にして。
 我に返り、強く抱きしめていた腕を緩めてくれた。呼吸を整えていると、イーディが心配そうに見つめてきた。

「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫」

 あのまま何もしなかったら、きっと窒息死していただろうな。

「イーディの馬鹿力」
「ケヴィンが悪いんでしょ!」

 この二人はいつもこんなやり取りをしている。

「あの、何か話があって来たのよね?」

 そろそろ本題に入ってほしい。

「そうなの。今日はとてもいい天気だから一緒に外へ行けたらいいなって。そのお誘い」
「へぇ、外で何をするの?」
「女の子同士の買い物。楽しいよ、きっと」

 買い物ね。そういえばまだ一度もしたことがなかったけど、あまり使いたくないな。
 でも、少しは何かを買いたいな。
 正反対の考えが天秤となって、ゆらゆらと動いている。

「金のことは心配しないで。給料をきちんといただいたから」
「それなら俺の給料で買いに行こう。イーディよりたくさんもらっているし、好きなものを買ってあげる」
「フローラ、着替えてくるから少しだけ待っていてくれない?」

 すると、ケヴィンが私の耳元でイーディに聞こえないように囁いた。
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