ライラックをあなたに…
「キッチンにあった包丁で、手首を……」
「ッ!!」
一瞬、目の前に火花が散った。
そして、胸の奥でジリジリ焼けた部分は、真っ黒い灰となって何もかも跡形もなく消え失せた。
目の前に見えていた光景でさえ、今は存在を失ってしまったように。
色も形も温度さえも。
「……さん……寿々さ………さん!!」
微かに耳に届く声は、心地良いとさえ思えた声なのに、今はその声さえも聞き取る事は難しいらしい。
鉛のように重かった身体が、ゆりかごの上でゆらゆらと揺られているような。
地に足が着いてない感覚で、目の前の景色もおぼろげでハッキリとしない。
身体に力が入らない。
彼の声が聴こえない。
あんなにも痛かった頭が、今はその痛みさえハッキリしない。
おぼろげな記憶が少しずつ見え隠れする。
彼の言葉を繋ぎ合わせると、1つの記憶が甦る。
―――――――そうだ、私は……。
その時、パンドラの箱の奥底に引き摺り込まれる………私がいた。