ライラックをあなたに…
「お義父さん」
「ッ?!…………うん」
『お義父さん』と呼ぶのもこれが最後だろう。
いつでも優しかったお義父さんには感謝している。
だからこそ、私は同じように心を痛めているであろうお義父さんを苦痛から解放してあげる事にした。
そして、私自身も、この苦痛から解放して欲しくて……。
「今日までの5年間、本当にお世話になりました。伊豆の温泉に行った時の事、今でも鮮明に覚えています」
娘と温泉旅行がしたいというお義父さんの夢を叶える為に、父の日に温泉旅行をプレゼントした。
お義父さんは夢が叶ったと、晩酌しながら涙を溢れさせていた。
そんな風に大事に想って貰えた事、決して忘れない。
………いい想い出として。
お義父さんが悪い訳ではない。
それは解っている。
だからこそ、私も前に進もうと思った。
「お義父さん、お義母さんとのご縁は今日で終わりかもしれませんが、私はこの5年、本当に幸せでした。ありがとうございました。それと………」
震える声を必死に堪えて、最後の勇気を奮い立たせ……。
「ご結婚、おめでとうございます」
新しい人生を歩む決心をして口にした、けじめの言葉だった。