ライラックをあなたに…
居酒屋のバイトに来たものの、寿々さんが気になって仕方が無かった。
今朝の彼女は、出勤する事すら一大決心のように何度も手をギュッと握り、そして、無意識に溜息を零したり、自分自身を必死に奮い立たせ気丈にも俺に笑顔を振りまいていた。
話の流れで解ってしまった、彼女とあの人の関係。
今までの話のパーツを嵌め合せると、同じ職場で毎日顔を合わせるという事。
しかも、彼女は退職願まで出した後だというじゃないか。
どう考えたって酷過ぎる。
マジでありえない。
話に聞くと、職場の人間にはあの人と付き合っていた事すら伏せていたらしい。
彼女にとって、これ以上無い条件が揃い過ぎてる。
言い方は悪いかもしれないが、妊娠して無い事が唯一の救いで、状況から言ったら『ロイヤルストレートフラッシュ』でお手上げの状態だ。
そんな彼女が健気にも、必死に乗り越えようとしている。
年下という事もあり、俺には頼りきれない所もあるのは事実。
俺は一体、どうしたら彼女の力になる事が出来るのだろうか?
「一颯、腹でも痛いのか?」
「へ?」