ライラックをあなたに…
意識が朦朧としながら、力の入らない足で立ち上がると、目の前にいた愛おしい人の姿はもう、そこには無かった。
『―――愛していた』
彼の言葉は、私の心の奥の大事な部分に、二度と開ける事が出来ない程に幾重にも幾重にも頑丈な鍵を掛けた。
閑静な住宅街にある公園は、不気味な程に閑散としていて……。
ほんの1時間ほど前までは、心地良いとさえ感じた夜風も、今は凍てつく程に冷たく感じる。
ふらふらと数歩歩くだけで眩暈を覚えた。
地に足が着いている感覚さえ無く、立っている事が精一杯。
満月の月明かりに照らされた桜の枝が、ぼんやりと視界の隅に。
開花前の枝先には幾つもの蕾が膨らんでいる。
けれど、咲きほこる前の蕾と同じように……
私の人生の花も、綻ぶことを知らないまま……
もう二度と、彼へ届くことが無い私の両手は……
無情にも……宙を舞い続けた。
彼の残り香と共に……―――……。