ライラックをあなたに…
結局、行くあても無い私は一颯くんのバイト先へお邪魔した。
大将と呼ばれる店主は、見た目は強面なのに心根は凄く優しい人で、昨日の私の醜態を見て知っている筈なのにそれに関して何も聞いて来なかった。
傷口に塩を塗られたくなくて、無意識に空元気を装ってしまった。
そんな様子を見ていた一颯くんは、終始苦笑い。
私って、本当に痛い女だ。
17時半を過ぎると、会社帰りのOLやサラリーマンが次々と押し寄せ、私が想像していた以上に店内は混雑していた。
「寿々ちゃん、悪いね!これ、奥座敷に頼むよ!!」
「あっ、はい!!」
大将から焼き鳥の盛り合わせを受取り、奥座敷の個室へそれを運ぶ。
メニューを把握していない私は、洗い物と料理の提供が主な仕事だった。
一颯くんは『リーダー』と呼ばれ、大将の横で焼物を作ったり、サーバーからビールを注いだり。
他のバイトの子達に指示を出したりと、昼間見た彼とは全く違う一面を覗かせていた。
他のバイトの子達も皆大学生らしく、若いからなのか、フットワークが軽い。
さすがに通勤用のパンプスで立ち回るのは無理だと思い、一颯くんのサンダルを借りてバイトの手伝いをしていた。