音匣マリア

†お誘い~菜月side~†

昨日の歓迎会ではかなり飲みすぎたみたいで、朝からちかちかする頭痛と戦っている。


やだ顔が浮腫んでる。


化粧のりの悪くなった肌にいつもより少し厚めにファンデを塗ってパウダーをはたいたら、幾らかはましな顔になったかな。


自分と兄貴の分のトーストを焼いてスクランブルエッグを盛り付けていると、寝癖頭をぼりぼり掻きながら兄貴がキッチンに降りてきた。


「おはよ。ボーッとしてないでコーヒー沸かすぐらいは手伝ってよね」


私は挨拶と共に嫌みを炸裂させる。


だって朝からやる気なさげな顔をされたら、一日が憂鬱になるってもんじゃない。


「可愛いげねーなお前。だから彼氏もいないんだろ」


私の嫌味にも動じないどころか反撃してくるその図々しさにはキレたくなる。



どうせ可愛いげなんてないですよーだ。



これ以上舌戦を繰り広げても無意味だと悟った私は、ただ黙々と朝食を平らげることに口を使った。


「そういやさ、お前昨日の事覚えてる?酔い潰れたお前を誰が送ってきたのか」


……そう言えば覚えていない。


「ヨッシーじゃないの?」


だって昨日の店で私が最後まで話してたのはヨッシーだったし。


ヨッシーなら私の家も知ってるから、てっきり送ってくれたのはヨッシーだと思ってたんだけど。


違うの?


「俺も初めて会ったんだけど、海野蓮がお前を部屋まで運んでやったんだよ。蓮ってさ、伊織サンの弟なんだってな」

「え。うそ」

「いや本当」


海野さんのお姉さんって、ヨッシーの好きな人なの!?


「知らなかったー。世間って狭いね」

「ああ。だから昨日速攻で蓮に携番聞き出した。伊織サンに連絡取れれば色々楽しめそうだし」


にひ、と笑う兄貴の顔はまるで悪戯を思い付いた悪ガキのようだ。


いい年してなんの悪知恵働かせてるんだかね。




のんびりと兄貴の与太話に付き合うにもいかず、急いで朝食を済ませ出勤の準備をする。


見た目に清潔感を与えるパンプスを突っ掛け小走りにバス停に向かうと、折よくちょうど滑り込んできたバスに乗り込んだ。





< 26 / 158 >

この作品をシェア

pagetop