ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
chapter 9


 夕刻近く、子爵とマーガレット、そしてローズを乗せた二頭立ての馬車は、ロンドンから北へ数時間のウェスターの荘園に到着した。

「ほら見て、先生、きれいでしょう? あれがわたし達のお城よ」

 城と言うとおり、それは三百年ほど前の様式の城館だった。

 秋の金色に色づく森に囲まれるように静かに建った城は、物語に出てくる吟遊詩人の詩を思い出させ、ローズも一目見るなり気に入った。

 馬車の中で子爵は、はしゃぎながらあれこれ話し続ける妹に辛抱強く答えながら、時折ローズを見ていた。

 自分が、必要以上に緊張していたことに、気づかれただろうか。

 でも、こんなに至近距離で座っていては、彼の存在を否応なしに意識してしまう。

 馬車が館の中庭に到着し、御者が扉を開けたとたん、マーガレットは勢いよく外へ飛び出した。

「メイベル! 来たわよ」

 そう言いながら出迎えの老婦人に飛びついていく。


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