ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
chapter 8


「えーっと、ウェストエンドの×5番地……と」

 夏の日差しが照りつける中、ローズは大きな木のトランクを下げて、手紙にあるウェスターフィールド子爵邸を探していた。

 日よけ帽の下で、手持ちの服では一番上等な濃い緑のクレープのドレスに汗がにじんでいる。さっきからもう小一時間、この高級邸宅街を行ったり来たりしているのだ。

「やっぱりここだと思うんだけど、もし違ってたら……。でも!」

 思い切って石段を上がり、重厚な扉のノッカーを叩いて人が出てくるのを待つ。

 開けてくれたのは、予想通りの老執事だった。彼女が名乗ると、

「ガヴァネスのミス・ローズマリー・レスターですね。お待ちしておりました」

と頷いて通してくれた。


 ああ、間違えていなくて、よかった……。ほっとしながら、屋敷内を眺める。

 二階まで突き抜けた玄関ホールには、天窓から明るい日差しが差し込んでいた。なんだかどきどきしてくる。

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