◇桜ものがたり◇

(光祐さま。

 祐里は、光祐さまが良家のお嬢さまとご結婚されても、

 いつまでもお屋敷でお仕えさせていただきます)

 祐里は、口には出さずに応えていた。


「祐里、少し冷えて来たから部屋に入ろう」

 光祐さまは、月が雲に隠れてしまった闇夜を見上げて、

 祐里の手を引くと、格子の硝子扉を閉じる。

 繋いだ祐里の手は、柔らかで心地よく感じられた。


「光祐さま、お茶が冷めてしまいました。

 温かいお茶をお持ちいたします」

 祐里は、時間が経って、冷めた紅茶を気にかけた。


「お茶はいいよ。

 それよりも少しでも長い時間、祐里と一緒にいたい」
 

 二人は、長椅子に座り、静かに寄り添った。


 何も話さなくてもこころが満たされ、

 しあわせな時間が永久に続くように感じられた。

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