「天音」

頭が真っ白になり、呆然と二人を見つめていた里桜は、冬矢の声にハッとして、目をそらした。

(あまね……それが、あの人の名前?)

それでも、意識は二人に向かってしまうのを止められなかった。

「ごめんなさい、出迎えもしないで」

「こっちが時間より早く着いたんだ。気にするな」

労るような冬矢の声、里桜に対する時と全く違っていた。

その事実に、里桜は苛立ちを感じると同時に、大きな疑問を持ち、眉ひそめた。

(どうして彼女がここにいるの? 時間より早く着いたって……待ち合わせしていたって事?)

そんな里桜の下に、冬矢と天音と呼ばれた女性が近寄って来た。

「里桜、彼女は円城寺天音。この店のデザイナーだ」

冬矢が紹介すると、隣に立つ天音は魅力的な微笑みを浮かべながら里桜を見た。

「初めてまして。お会い出来て嬉しいわ」

「よろしくお願いします、二ノ宮です」

天音が冬矢に視線を送るのを見て、里桜は自分で名乗り頭を軽く下げた。

冬矢に紹介なんてされたくなかった。

二ノ宮と名字しか名乗らなかったのも、親しくするつもりは無い気持ちを表したつもりだった。

里桜の態度が気に入らないのか、冬矢が険しい視線を向けているのがわかった。

けれど、そんな事は気にならない位、里桜は腹を立てていた。

この作品のキーワード
恋愛  政略結婚  すれ違い  婚約者